[世界樹の迷宮Ⅱ]ウィルの冒険14(6階)
「あらお帰り……って、どうしたんだいアンタたち、そんなになっちゃって」
フロースの宿の女将さんは、僕たちの姿を見て目を丸くする。
宿へと帰ってきた僕たちは、全員、まさに満身創痍の状態だった。
特にラフィニアは、今でこそ自分の足で歩いているが、先ほど薬泉院で治療してもらうまでは僕が背負って連れていたぐらいだ。
で、宿に着いたところで、僕も糸が切れた。
女将さんに宿の手配をするのも忘れて、その場にへたり込む。
それはみんな同じようで、次々にその場に崩れ落ち、パメラに至っては瞳いっぱいに涙をためて今にも泣き出しそうな顔でこっちを見て……って、うわっ!
「ふえぇぇん、怖かったよウィル~!」
本当に泣きながら僕のほうに飛びついてきた。
僕も今の力の抜けた状態じゃそれを支えきれず、後ろに倒れ…ってこの体勢はやばいって!
…まあ、パメラのことだから、僕が考えているような他意があるわけもなく。
いや、こんな宿の入り口で他意があってこんな状態だったらそれはそれで怖いけど。
けど、それも勝手知ったる僕たちだからこその認識であって。
えぐえぐと子供のように泣きじゃくるパメラの頭を撫で、なだめる僕に、女将さんは呆れ顔で言うのだった。
「うちはいかがわしい宿じゃないんでね。そういうのはせめて、部屋に行ってから目立たないようにやってくれないかい?」
……はい、すみません。
------------------------------------
時は変わって翌日。場所も変わって鋼の棘魚亭。
お風呂に入って、おいしいご飯を食べて、一晩ぐっすり休んで、さっぱりとリフレッシュした僕たちはミッションの報告で酒場に来ていた。
「で、なんか酷い目に遭ったんだって?」
オヤジさんは僕たちに1杯ずつ好きなものを奢ると、土産話を要求してきた。
「ええ、うっかりFOEに遭遇してしまって…」
------------------------------------
正直に言って、油断していたというのはある。
キマイラをあまりに呆気なく倒し、常緋の階層に入って遭遇するモンスターも拍子抜けするぐらい弱かった。
現段階において──こういうのも変な話だが──僕たちは強くなりすぎているのだと思った。
だから、そのハロウィン的な飛びカボチャにうっかりぶつかってしまったときも、初めて遭遇するFOEとは言え、十分に余裕を持って対処できるであろうと踏んでいた。
その数量的な戦力差予測自体は、実際のところ、おおよそ間違えていなかったと思う。
そのカボチャの攻撃は、確かに強烈ではあったが、致命的な何かが発生するレベルのものではなかった。
けれど、そこには明らかな誤算があった。
そいつには、物理的な攻撃が、致命的なまでに通用しなかったのだ。
実質、まともにダメージを与えられるのは僕のサンダーショットしかなく。
背に腹は代えられないと、術式の起動符やら何やら、魔法ダメージを与えられそうなアイテムをとにかく大盤振る舞いで使いまくった。
それらのアイテムも切れ、頼みはサンダーショットのみとなり、遂にはラフィニアの回復魔法も打ち止めとなった。
一瞬、逃走という選択肢が頭を過ぎる。
しかしそのときには、もうカボチャのほうもへろへろだった。
あとサンダーショット1発で落とせるんじゃないか、あるいは2発なら確実……そんな感じ。
対するこちらは、回復魔法が尽きたとはいえ、全員ほぼ全快状態。
攻撃を1発受けたところで、誰かが倒れることは100%ありえない。
仮に2発目を貰ったとして、おそらくは大丈夫。まして全滅までは至るはずもない。
これだけ色々使いまくって、今更逃げを打つ選択は、ない。
そう判断して、なお攻勢に出ることにした、のだが…
------------------------------------
「まさか、あそこでサンダーショットを外すとは、のぅ?」
ぐさり。
ラフィニアの言葉が僕の胸をえぐる。
「しかも2発連続」
クリティカルヒット!( つД`)
「さらにはそれでサンダーショットが打ち止めで、結局、死にそうになりながら皆で必死に逃げてくるなんてことになろうとは」
「その……正直ごめんなさい」
本当に、まったく…。
背後にとても運の悪い何かでも憑いているんじゃないか?
「はっはっは、なるほどな。まあいいじゃねぇか、こうしてみんな生きてるんだしよ」
「うむ、オヤジ殿の言うとおり。それに過ぎたことを悔いても仕方がない。今後どうするかを考えるほうが、よほど有益だろう」
オヤジさんの言葉を受けてレミィが言う。
そうなんだよなぁ…
今回の件で、僕たちのパーティに属性攻撃力が不足していることが明白に見えてしまったんだけど、どうしたものか。
ううむ…