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Stray thoughts

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随想。あるいは道に迷った思考。

三題噺:おさげの女の子、電柱、看板

 ちょっと三題噺のお題を出されたので考えてみたテスト。
 煮え切らない。

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 これは僕が出会った、ただの不思議な出来事の話だ。

 僕は、小学校は中学年の頃、よく近所の駄菓子屋に通っていた。
 その日も僕は、学校が終わった後には駄菓子屋に行き、店の前の道路で10円のチョコリングを大事に食べていたのだが──そのとき、僕はふと見つけた。
 道路の、駄菓子屋の店頭から10mほど離れた場所にある電柱。その電柱の物陰から、同い年ぐらいの見知らぬおさげ髪の女の子が、じっとこちらを窺っていたのだ。

 僕と目が合った女の子は、ひとまずびくっと怯えた。そしてその後、踵を返して向こうのほうに駆け出した。

 何をしていたんだろう、とか、そういうことはあまり思うことなく、なんとなくその子のことが気になった。
 僕はチョコリングの残りを口に放り込んでから、そのおさげ髪を追いかけて走った。

 追いかけてきた僕を見て、その子はさらに慌てて逃げようとした。僕はそれを追いかけた。
 おさげ髪が角を曲がる。
 僕も追って角を曲がろうとしたそのとき──

 何かとても絶望的な、金属とガラスと肉をいっぺんに引き裂いたような大きな音がした。

 僕が角を曲がると、目の前の路上には、頭上から落ちてきたのであろう店の看板が派手に砕け散っていて、その砕けた看板の残骸の下に、おさげ髪の女の子、だったものが横たわっていた。
 その姿は血まみれなんて生易しいものではなく、もう明らかに駄目だなと直観できるような酷いものだった。
 僕は妙に恐ろしくなり、一目散にその場から走り去った。


 それから年月が経ち──あれは僕が大学生のとき。
 その事件があって以後は行っていなかった駄菓子屋の前を、昼下がりにふらっと通りがかったことがあった。
 時代の流れというやつで、そのときには駄菓子屋はもう店じまいをしていて、店の入り口には殺風景なシャッターが下りていた。

 少し寂しさと、別の複雑な感情を一緒に感じながら──僕はふと、あの電柱を見た。

 心臓が止まるかと思った。
 その電柱の物陰には、おそらく小学校の中学年ぐらいであろうおさげ髪の女の子がいて、じっとこちらを窺っていたのだ。
 もちろん、あのときの子ではない。別の子だ。
 おさげ髪という点以外、特に似ているわけでもなかった。

 僕と目が合った女の子は、ひとまずびくっと怯えた。そしてその後、踵を返して向こうのほうに駆け出した。

 おいおい、まさか、それはないだろう、と苦笑する。
 でも、もしかしてと思う気持ちを消し去ることができず、数瞬躊躇した後、僕は駆け出していた。

 追いかける。
 おさげ髪が、あの角を曲がろうとする。
 でも大学生の僕は、小学生の僕よりも足が早く、女の子はもう目の前だった。

 今止めれば間に合う。手を伸ばして、逃げる女の子の手を掴めばいい。
 ──おいおい僕はロリコンの変質者か?
 躊躇ったが、それでも手を伸ばし、女の子を捕まえた。

 そのとき──金属とガラスをいっぺんに引き裂いたような、大きな音がした。

 角を曲がった先を見ると、頭上から落ちてきたのであろう、店の看板が派手に砕け散っていた。
 一方、おさげ髪の女の子の温もりは、僕の手の中にあった。


 これは僕が出会った、ただの不思議な出来事の話だ。
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by ikapon24 | 2010-07-04 05:41 | 日常