[TRPG論考]ゲームバランスが語るD&Dの疑似体験性
さて、ダイス目の安定感について2つ前の記事で妄言を吐いたのですが、ダイス目の安定感のなさで言えば定評のあるのがクラシックD&Dです。
あれをやったことのあるプレイヤーは、おそらくあの乱数幅の大きさ、不安定感に馴染めなかった人が多いんじゃないかと思います。
電撃ゲーム文庫出版のシナリオ集『キングスフェスティバル』に付属しているサンプルキャラクターのデータを見ると、前衛で攻撃を受けることになると思われる戦士、僧侶、エルフ、ドワーフなどでも、初期のHPは5~8程度です。
1レベルで頻繁に戦うことになる、一番弱いモンスターの一種であるオークでも、ショートソードを持っていれば一撃で1d6点のダメージを与えてきます。
前衛担当のキャラクターは、堅牢なチェインメイルやプレートメイル、シールドで身を包み防御を固めていますが、これはダメージを減少させるのではなく、攻撃を回避する役割を担います。
彼らのアーマークラス(AC)は1~3程度で、オークの攻撃を15~25%の確率でしか被弾しません。
(ちなみに魔法使いのACは7で──これでも敏捷性による修正で2点有利になっているんですが──オークの攻撃は45%の確率で命中します)
これを期待値で計算すると、HPの平均値6.5、ダメージ期待値3.5、命中率20%で、キャラクターはオークの攻撃に9~10発程度晒されることで、HPが0になるものと計算できます。
この値自体は、それほど極端に少ないものではないでしょう。
アリアンロッドで言えば適正か、むしろややぬるいぐらいのバランスかもしれません。
ただ、このゲームの初期の恐ろしいところは、運が悪いと前触れなく一瞬でキャラクターが死んでしまうところにあります。
いくら命中率が低くても、HP5とか6のキャラクターはオークのショートソードの一撃で命を失ってしまう危険性がありますし、7以上あるキャラクターでも2匹以上の敵を残して敵のターンに突入した時点で同様の危険に晒されます。
日本のゲーマーのほとんどは、このゲーム性に初見で馴染むことはできないでしょう。
今の一般的なRPGの感覚でプレイすると、「事故死の確率が高すぎるクソゲー」「ただの運ゲー」という認識になるものと思います。
しかし、ここでふと視点を変えてみると──事「疑似体験性」に着目してみると、これは若干面白いバランスになっています。
白刃の前に身を晒すという行為がどれだけ危険なことかを、ゲームを通して体感できるようになっているのです。
たったこれだけの簡単なルールで。
堅牢なプレートメイルに身を包んでいたとしても、どんな不運で、いつ命を失ってもおかしくない、という現実を再現したかったのかもしれません。
もちろん、そうでないかもしれませんが。
そうすると、戦うこと自体が危険であると認識したプレイヤーは、「如何に戦うか」ではなく、「如何に戦わないか」に知恵を絞るようになる──かもしれません。
少し前の時代によく語られた「知恵や口先で戦闘を回避する美学」は、このようにして生まれたのかもしれないなぁ……などと想いを馳せたりするのでした。